去勢と避妊
By Yoshifumi Yamawaki  05/05/2000

はじめに

一般的に避妊・去勢手術は、不幸な子供を作らない為だけと考えてる人が多いが、避妊・去勢手術を行う事により、「性ホルモンに起因した病気の予防」と「人社会で共存するには不都合な行動の是正」に役立つというメリットがあります。
もちろん麻酔等の手術のRiskは皆無ではありませんが、麻酔技術の進歩により非常に安全性の高い手術であると言えるでしょう。

一方、「自然のままがいい.避妊、去勢なんて、人間のエゴだ」とか「健康な体にメスを入れるのは可愛そう」というご意見の方もいらっしゃる事と思います。

そもそも、人が動物の自由を束縛して「飼う」という事は「自然な事」ではありませんし、ましてや交配相手を飼主が選び、妊娠させ、その子供達を親から引き離し、他の飼主に譲り渡す事は「人間のエゴ」以外のなにものでもありませんし、繁殖本能を押さえ込む事も自然な事ではありません。

我々が好むと好まざるに関わらず、一定の社会ルールの中で生きておりその人間が犬を飼うのですから、当然犬にも一定の「制限」が課せられるのは致し方ありません。

そして、そのやむを得ない「制限」を、できるだけストレスが伴わないようにしてあげるのが、飼主の「優しさ」であり、「責任」だと思います。

犬にとって、生殖行動は本来「自然で正常な行為」なのです。
しかし、飼主から、本来「正常な生殖行動」を制限される事で、どれだけ、肉体的、心理的にストレスがかかっているか、一度考えてみて頂けないでしょうか?

本能を抑制された時の精神的ストレスは、かなり大きなものがあります。

オスの場合には、発情期という時期はありません。
発情中のメスがいれば、いつでも交尾できる体勢になれるのです.。
メスの場合にも、発情期にはオスを求めます。
でも、本能のままに自由に交尾ができる生活環境を飼主は愛犬に与える事ができますでしょうか?

オスがメスを求めて興奮しているのを、飼主さんは必死になって止めていませんか?

手術方法

避妊手術

1、卵管結搾(卵管を糸で縛ってしまう)
2、卵管摘出
3、子宮摘出 
4、卵巣子宮摘出 があります。

この中の卵巣摘出ですと子宮は残るわけですが、これを少しでも残すと子宮内膜症や腫瘍の発生が頻発するというReportがあります。
但し、この頻発というのがどのくらいの割合なのか具体的なデータを私は持っていません。

人間の場合と異なり、動物の場合のデータは本当に少ないのです。

今から20年位前に開業されたような獣医師では、この卵巣摘出を勧めておられる場合が少なからずあるようです。

理由としては、
「卵巣を摘出してしまうことで,黄体ホルモンの分泌がなくなり,自浄作用が衰える期間が無くなる.よって子宮蓄膿症にはならなくなる。」

という事です。 当時はこれが主流だったのです。

しかしながら、卵巣を摘出した犬の中から、子宮蓄膿症等になる犬が出てきて、最近では卵巣子宮全摘出が主流となっているのです。

もちろん全摘出をすれば可能性は0%になります。

去勢手術

精巣摘出をします。
メスと比較すると随分と楽な手術になります。

但し停留睾丸の場合には、切開が必要となります。

停留睾丸とは;
オス犬の場合、睾丸が1つあるいは両方が陰嚢まで到達しない場合がありこれを停留睾丸と呼びます。
通常生後10〜14週になるまで睾丸は鼠径管の中を上下に移動し,陰嚢に落ちつくことはありません


停留する場所は、腹腔内にある場合、鼠径部にある場合等のケースがあり、停留睾丸の腫瘍発生率は正常睾丸の10倍以上あると言われてます。
良く見られるのは、右側の睾丸が鼠径部に停留するパターンです。(鼠径部:お腹と足との境目)

防げる病気

1.性的なストレスや不安、攻撃、防衛、衝動などから開放され、またそのような事柄を学習する事もなく、精神的なリラックスが得られます。

2.そうなると、当然食欲などに影響は出難くなる。(食欲は増します) けんかも少なくなる。従順になる。事故が起きにくくなる。

5.卵巣と子宮、精巣を取り除いてしまうのでそれらに関連した病気は一生起こりませんし、これらの関連した病気は飼い主さんが発見し難 いので手後れや、重傷など、病気に対するリスクが高くなり、
他の病気を併発し、結果、体に負担を掛ける事になります。


雌では、
・子宮蓄膿症
・卵巣のう腫
・子宮内膜炎
・子宮筋腫
・卵巣子宮の腫瘍
・そけいヘルニア
・乳腺炎
・乳腺腫瘍
・ホルモン性脱毛、など。

子宮及び、卵巣を取ってしまうので、子宮・卵巣関連の病気は
100%防ぐ事が可能です。
乳腺腫瘍に関しては、初発情前に手術すると、200分の1,1回の発情 後の手術では12分の1,2回発情後の手術だと4分の1にの確立に押 さえる事が可能です。

又、当然、妊娠、出産、子育ては重労働です。体力的な消費やストレスも受けます。特に栄養的な事は非常に大切ですし、一生に関わるような問題が生じる事もあります。大げさに言えば出産により命を落とす事さえあります。
例え出産しなくとも、発情、偽妊娠も非常に体力を消費します。



雄では
・ブルセラ
・睾丸炎
・睾丸の腫瘍
・副睾丸炎
・肛門周囲腺腫
・アポクリン腺癌
・前立腺癌
・前立腺膿瘍
・会陰ヘルニア
・ホルモン性脱毛、など。

精巣を取り払ってしまうのですから、睾丸系の病にはかかりようがありません。また、その他の病気は性ホルモンによる影響が大きいと考えられており、ホルモンが産出される精巣を摘出してしまえば病気の発生率も抑えられるというわけです

これらの病気になった時の、第一の治療は卵巣子宮摘出・精巣摘出です。

若い健康な犬の健康な組織を手術を手術するのと、年を取って体力が衰え、病気になり障害を抱えた組織を手術するのでは、全く同じ事をする手術が、全く異なった手術になってしまいます。
手術のリスクも、その予後も全く異なります。



手術の時期

ここ数年前までは、6週令から16週令での手術はアメリカでもしておりませんでしたが、最近のガス麻酔と手術方法の著しい進歩により可能となり、アメリカではそれが主流となってきています。

その原因として、いわゆるシェルター(犬の保護施設)での保護犬を早期に去勢・避妊し里親に出すという事も理由の一つですが、さらにそのくらいの年齢ですと成犬に比べ、回復が早いというのが主な理由です。
ホスキン博士によると、「若年時の早期避妊/去勢は手術時間が短く、且つ腹部内構造の視認性が高まり,麻酔からの覚醒が早いことは疑いのないところで、さらに若年時の避妊/去勢を受けた動物は,より人に懐きやすく,静かで,穏やかで,彷徨することが少なく,(望ましい)子供のような振る舞いをずっと維持する」と言われています。 アメリカでも、従来獣医師は5〜8ヶ月が去勢・避妊手術に適した時期と教えられて来ました。 しかしこれらに確たる根拠は無く
唯一の条件は睾丸が陰嚢に近くにあるかおさまっているという事だけのようです。

但し、日本では、まだそのような年齢での手術の実績が乏しい為、3〜5ヶ月くらい、遅くとも6ヶ月で行いたいものです。。
(小型犬の場合は成長が早いのでもう少し早い方が良いかもしてません)
近いうちに日本でも6〜16週令での早期去勢・避妊手術が主流になってくるでしょう。

いずれにせよ、去勢、避妊のメリットとして健康上の問題行動学上の問題、社会的な問題等があり、夫々別に考える必要があるのですが、健康上で言えば、発情前に手術をしないと少なくとも犬に多発する乳腺腫瘍に関してはあまり効果が期待できなくなります。

又、行動学的には、犬の第2次性徴が出る前に、即ちオスはオスとしての性格(縄張り意識や異性への執着)が出る前に手術する事で、犬も不要なストレスを感じる事なく、いわば子供の性格のまま(完全ではありませんが)残せるというメリットがあります。

(メスの場合)
遅くとも初回発情がくる前に手術をされることをお勧めします.

生まれて初めての発情は個体差がありますが、だいたい生後6ヶ月から8ヶ月くらいで起こります。

発情前の避妊手術は乳腺腫瘍の危険性を減らします.最初の発情前の雌犬,1回目の発情を終えた雌犬,2回目の発情を終えた雌犬の乳がんにかかる危険性は,それぞれ0.5%,8%,26%となっています.

よく、「一回お産をさせてから手術したほうが良い」等というようなことを耳にしますが、どういった根拠があるのか不明です。
発情や妊娠で女性ホルモンの分泌が活発になりまります。
ですから、そういった状態で子宮・卵巣を摘出すると、急激なホルモンの変化が生じ体にたいする影響が大きくなります。

また、そのくらいの月齢の子宮は、成熟した子宮または出産経験のある子宮と比べて細く、それを摘出する際の皮膚の切開部分が小さくて済みます。

当然、傷口が小さければ体に対する影響も少ないですし、抜糸までの術後管理もそれほど神経を使う必要がありません。
獣医師によっては、思い切って大きく切開する方が子宮の取り残しを防ぎ他の疾患も見つけやすいという説もあります。

尚、発情中の手術を、勧められる獣医さんもいらっしゃいますが、発情中は子宮が柔らかく、大きくなっている事と、ホルモンが盛大に分泌されている状態ですので、この期間の手術は避ける事が肝要です。


体が成熟する前に,即ち女性ホルモンが活発に分泌される前に手術を行う事が「病気の予防」・「体に対する負担の軽減」の両面から考えてお勧め致します。

メスの不妊手術は発情期間の前後2ヶ月は止めた方が良いようです。
シーズン中や直後はもちろんいけないのですが、メスは年に四ヶ月、ホルモンの関係で安定していない時期なので、その時期は避けるということです。

発情期にはには、卵巣でエストロゲンが生成されますが、排卵後にはもう一方の女性ホルモンであるプロゲステロンが支配的役割を果たします。このプロゲステロンは犬に鎮静効果を発揮するものです。
プロゲステロンの量が犬の体内で増加するのは、ほんの短い間ですが、プロゲステロンが血中に残り、発情後二ヶ月程、脳に影響を与え続けます。ですから、発情後二ヶ月は避妊手術は行わない方がよいのです。
この時期に避妊手術を行うと、体内のプロゲステロンの量が急激に低下してしまうため、場合によっては情緒不安定、いらいら、攻撃性や抑鬱症などの問題が出現してしまう可能性もあります。

これから避妊手術を受けさせようと思っておられる方は、時期にも注意なさってください。


参考文献
*DVM Newsmagazine November 1996
*Early Age Spay/Neuter -A Tool Against Unnecessary Euthanasia 
 (http://infoweb.magi.com/~cfhs/fact.htm)
*ESP - Early Sterilization Program(http://www.king.igs.net/~brica/esp.htm)